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先日発表された『走ることについて語るときに僕の語ること』に続いて、村上春樹の『東京奇譚集』を読んだ。空き時間にすらっと読み通すことのできる短編集である。本屋の軒先には、和田誠とのコンビ作『村上ソングズ』を新刊で見かけたので、ここに来て村上フリークには堪らない年末の読書休みを過ごすということになりそうだ。
この短編集であるが、やはりどこまで行っても村上春樹は村上春樹だった。つくづく日本人離れしている。各々の短編に出てくる登場人物は、やはりどこか浮世離れしていて、足のない幽霊みたいな人がとてもポエティックに、そしてインテレクチュアルに会話を交わす。現世の俗物である当方にはしばし違和感がある。しかし「何だかおかしいな」と現実とのズレを感じさせてこその村上春樹だ。いつものように英語のような比喩が散りばめられ、寓話的な世界観が構築されている。
では、御大ご当人もそういう自身の作品に出て来そうな人柄かというと、『走ることについて語るときに僕の語ること』に綴られた自伝(告白)によれば、そうでもないらしい。あくまでもプロの作家として、自らの作品世界を追及しているのであって、「僕だって俗物みたいなことを考えたりします」といった具合で、僕は『走ること-』には好感を持った。
また、母校から坪内逍遥記念賞みたいなものを贈られた折には、ざわざわ授賞式に出席してスピーチまで行ったというから、日本でのメディア露出は極端に少ない氏としては異例の行動であった。懐かしの母校への誇りのような、愛情のような感情を持っていて、満を持して凱旋したのではないか。これは成功をおさめた人によく見受けられる発想であって、僕はすっかり村上さんに親近感を覚えて、「生意気を言うようですが、先輩の気持ち、分かります」という心持ちです。
僕はしつこいようだが俗物そのものなので、今度仕事でお会いする機会があるかもしれない平野レミさん(和田誠さんの奥さん!)に、『村上ソングズ』にサインをネダロウ、どういう口上で頼もうかな、などと今から入念に準備を整えようとしているところだ。本当は村上さんのサインが貰えたら、末代までの家宝にするのだけれど。
『警官の血』上下巻を読み終えた。今年一番のミステリーという触れ込みであったので、かなり期待をしていた。途中冗長なところがなかったとは言わないが、全体の印象としては読み応えのある作品だった。
戦後の日本に影を落とす事件、テーマをモチーフに、警察官三代を通じて描いた叙事詩といった趣きだ。下山事件、学生運動と左翼運動、公安警察の盛衰そして警察内部の腐敗、経済事件の流行。これらが有機的に警官の一族へと絡まっていく。乾いた文章(地の文、会話文ともに)が、戦後の日本の闇を照らすに相応しい雰囲気を醸成している。
作品に登場する谷中は私の祖母が住んでいて、描かれる派出所やら五重塔跡やら谷中霊園は、幼少の頃の遊び場で馴染み深い場所だ。その意味でも、とても興味深くこの作品を読んだ。
以前、自転車でふらふらと杉並公会堂へ行き、駐輪で警備員の方と揉めたことがあったが(8月9日付け『暑中のご挨拶-怒りの自転車-』)、そんなことはともかくとして、建立されてからまだ1年半ほどしか経っていないこともあって、とても綺麗な建物だ。
夜の帳が下りて、ガラス張りの壁面から光が漏れると、建物がほのかに
発光しているようでムーディーでもある。
クリスマスシーズンを迎え、この杉並公会堂で来る18日(火)に、木幡光邦氏をリーダーとする総勢19人のビックコンボがコンサートを行う。演奏もさることながら、なんと言っても耳目を集めるのは、世界で初めて特製のワンポイントマイクを使って、アンプラグドで生音をステレオ録音するということだろう。
と、ご案内はするものの、当方は録音知識に乏しいので、これ以上のことはよく分からない。当方、”アンプラグド”といえば、MTVでのエリック・クラプトン、”ワンポイントマイク録音”といえば、ルディ・ヴァンゲルダー、”腹が減ったら吉野家”くらいのレベルなのであるが、何でも凄いポジションにマイクを設置するという。
この様子を見に行くだけでも価値があるかもしれません。
(僕は残念ながらまた宴席です・・・)
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