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COLDPLAY

 「21世紀最大のロックバンド」との呼び声も高い「コールド・プレイ」が来日した。先日のグラミー賞3部門での受賞の勢いそのままに、コンサート序盤から大盛況だった。

 私がこのバンドのコンサートに行った理由は、ある記事で「英のバンドなのにビートルズはおろか、米黒人音楽の影響も皆無」と評されていて、ボーカルのクリス・マーティンが取材に対し、「僕の人生で最高だった公演はジョン・ウィアムスが指揮したニューヨーク・フィルの公演」と答えたのを読んだからだ。iPodのTVCMにも起用された当代随一のロックバンドが、実はクラシックから影響を受けていた、というのはとても面白いと思ったのだ。それを確かめるために「さいたまスーパーアリーナ」まで出向いた。

 オープニングで大ヒットアルバム『VIVA LA VIDA/美しき生命』から耳慣れたナンバーを演奏し、アリーナを埋め尽くした観衆は歓喜の悲鳴を上げた。クリス・マーティンは決して美声で歌上手という訳ではない。このバンドの真骨頂は確かな楽曲の構成にある。

 「ロックアート」を標榜するだけあって、美しい曲調の中に哀愁があり、今の時代に呼応しているようにも感じる。どこかしら「淋しい」「悲しい」みたいな要素が盛り込まれていて、曲に独特の雰囲気がある。外見はロックの「衣」をまとっているが、クラシックの詩情が「芯」にある。そしてそれは決して重苦しいものではなく、羽のようにライトでカジュアルだ。

 それが意図したものなのか、それとも元々の資質なのかは判断しにくいが、特にピアノソロの場面でクラシックを感じさせた。出自や素養がクラシックなのだろう。ある曲では粋なファンサービスとして、最終部にクラシックのピアノ曲を弾き出したのには驚いた(私はクラシックは不勉強なので曲名は分からなかったが、ロックバンドのコンサートでは前代未聞だろう!)。

 いずれにしてもiPodのCMでお馴染みのナンバーでコンサートは最高潮に達した。

 上述の記事ではビートルズの影響は皆無とあったが、その曲を披露したりする余裕もあって随分と楽しませてくれた。演奏の幅が広い。

 『ビートルズ』から、アイドル的な表現で『バックストリート・ボーイズ』、メッセージ性と曲の洗練で『REM』、現代的なメロディーと程よいカッコよさで『ブラー』、知的上品さと挑戦の志で『レイディオ・ヘッド』ひいてはカントリーテイストまで、何でもこなす。実に「ミクスチャーバンド」である。

 隣にいた若い女の子(余談だが、身振りが大きくて随分と迷惑だった)はノリのよいダンサブルスなナンバーで体をくねらせていたけれど、私の見立てでは、ノリノリで踊るようなアップテンポな曲よりも、『スローロック』調というか『クラシックバラード』風味というか、しっとりした、地に足の着いた大人のロックが本領発揮の部分なのではないかと思った。

 ということは、商業ベースできちんと成功する楽曲をやって、派手さはないがクラシックの柔らかさをまぶした地味な曲もやっていけるよう自分たちを担保する強かさと戦略も有しているかもしれない。

 曲想の幅広さ、演奏の幅広さは老若男女に迎えられるということだから、これは『売れるのも当然』という具合に感じた。

 * * *

 付記しておくと、ボーカルのクリス・マーティンはピアノとギター、ドラムのウィル・チャンピオンはギターも弾いて、多芸であった。



 ちょっと閉口したのは、開演から1時間しても現れなかったこと(知らないバンドがずっと前座を務めた)。取材応対にでも追われているのだろうと思って、帰宅してTVをつけたらやはりインタビューで出演していた。まあこれは彼らが悪いという訳ではないけれど…。
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