ある訃報

　私が通っている美容院のUさんという方が亡くなった。

　通い始めてかれこれ7、8年くらいだろうか。たまたま家人に紹介されて、はじめは美容院なんて嫌だなと男の子らしく思っていたのだが、カットの技術が高くて、もう他の床屋には行けないなとなってしまった。

　Uさんは沖縄出身で、少しチョイ悪な雰囲気を漂わせた二枚目の美容師だった。女性のファンが多くいたという。家人もその一人だ。 　

　一年半ほど前、共同経営者の美容師の人から入院の旨を訊いた。そしてその病気は癌で、かなり深刻な病状であることも知らされた。胃カメラまで飲んで胃潰瘍と誤って診断されていたのだという。どうにも体調不良は治らず、ほどなくして癌であることが分かり、有明の癌研に入った。癌研といえば、日本で一番の病院だ。その癌研をして、大変珍しいタイプの癌であったらしい。日本人の症例が少なく、アフリカ人のなる種類だったらしい。 　

　力の入った懸命な治療で、いったんは退院した。そして、そんなに時間をおかず再発して再び病院に入った。 　

　おそらく本人も周囲も時間は多く残されていないことを、何となく分かったのだろう。Uさんとその恋人は、病院の中でウェディングドレスに着替え、結婚式のようなものを執り行った。その写真を数カ月前に見せてもらったのだが、ちょっと痛々しいものだった。イケメンだったUさんは目がぎょろりとして、病人特有の顔色をしていた。 　

　そして今日、美容院に行って、8月13日に逝去されたことを告げられた。享年41歳。あまりに若過ぎる死である。人生はかくも不平等で苛烈なものか、と思わされる。 　

　私はUさんとは美容院でしか会ったことがないから、友人とはいえないかもしれないが、ここに記すことで、せめてもの弔いをしたい。合掌、安らかに眠って下さい。