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オーディオ、音楽、建築のほかメディア評、書評や日々の雑感など、ジャンルごった煮でお届けしています。
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■◆乱読日誌(書評)
[2024/04/25] [PR] (No.)
[2008/06/01] 『チューバはうたう-mit Tuba』 (No.139)
[2008/06/01] 『沈黙のファイル-「瀬島龍三」とは何だったのか』 (No.138)
[2007/12/19] 『東京奇譚集』 (No.101)
[2007/12/16] 『警官の血』 (No.100)
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 先日、チューバソリストのオイスタイン・ボーズヴィークについて話をしていたら、ある人から『チューバはうたう-mit Tuba』(瀬川深、筑摩書房)を紹介された。何でも本作で太宰治賞を獲ったのだという。東京医科歯科大を出た現役の医師が書いたというので、どうせ渡辺淳一氏の後釜で恋愛ロマンス小説かと斜に構えて想定していたら、そうではない。

 冒頭数ページをめくってみて、たいへん僭越なのだが、<こんなんで太宰治賞?>などと思ったのは大いなる軽率!チューバというマイナーな楽器を通じて現代女性の心理のみならず、ある特定のマニアックな趣味嗜好(本書であればもちろんチューバ演奏)に耽溺していく人間の苦悩や喜びまでも見事に描き出している。

 瀬川氏の公式HPなどで拝顔すると、お世辞にも色男という感じではないのだが、読み通すと<なるほど女性というのは、こういう心理構造になっているのか>と勉強にもなる。<どうしてこんなに女性の気持ちや考え方がよく分かっているのか>と疑問も抱くことになる。場合によっては、渡辺淳一氏のような大人の男女の機微をテーマにした作品を書いても、充分にその筆力や下地、経験があるのではないかと思わせた。人は見かけによらない。

 音楽の描写も素晴らしく、主人公が憧れる楽団のコンサートでは、空高く音が飛翔していく読み心地。文学賞を受賞したその理由がよくわかる。

チューバはうたう
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 書棚にある本が気になって何冊か読み返した。『沈黙のファイル-「瀬島龍三」とは何だったのか』(共同通信社会部、新潮社)。

 蘇る金狼。陸軍始まって以来の秀才と云われ、大本営参謀から終戦後、シベリア抑留。10年余り後に帰国し、伊藤忠入り。一介の社員から会長にまで登り詰めて、政界の影のキーマンと評された瀬島龍三。紙面に登場する人物もキラ星ばかりで、作戦の神様<辻政信>、右翼の大物<児玉誉志夫>、渡辺主筆が番記者だった自民党副総裁<大野伴睦>・・・。それぞれの人で一冊を構成できる人達ばかり。

 ずばり、船戸与一氏による帯のコメント<日本的選良とは何か>が最も本書の、そして「瀬島龍三」を言い表すのに相応しい。戦後60年でこういう人はいなくなりつつある。それにしても共同通信の社会部というのは、こういう飛び切りの仕事をすることがあって恐れ入る。

チンモクノファイル
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 先日発表された『走ることについて語るときに僕の語ること』に続いて、村上春樹の『東京奇譚集』を読んだ。空き時間にすらっと読み通すことのできる短編集である。本屋の軒先には、和田誠とのコンビ作『村上ソングズ』を新刊で見かけたので、ここに来て村上フリークには堪らない年末の読書休みを過ごすということになりそうだ。

 この短編集であるが、やはりどこまで行っても村上春樹は村上春樹だった。つくづく日本人離れしている。各々の短編に出てくる登場人物は、やはりどこか浮世離れしていて、足のない幽霊みたいな人がとてもポエティックに、そしてインテレクチュアルに会話を交わす。現世の俗物である当方にはしばし違和感がある。しかし「何だかおかしいな」と現実とのズレを感じさせてこその村上春樹だ。いつものように英語のような比喩が散りばめられ、寓話的な世界観が構築されている。

 では、御大ご当人もそういう自身の作品に出て来そうな人柄かというと、『走ることについて語るときに僕の語ること』に綴られた自伝(告白)によれば、そうでもないらしい。あくまでもプロの作家として、自らの作品世界を追及しているのであって、「僕だって俗物みたいなことを考えたりします」といった具合で、僕は『走ること-』には好感を持った。

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 また、母校から坪内逍遥記念賞みたいなものを贈られた折には、ざわざわ授賞式に出席してスピーチまで行ったというから、日本でのメディア露出は極端に少ない氏としては異例の行動であった。懐かしの母校への誇りのような、愛情のような感情を持っていて、満を持して凱旋したのではないか。これは成功をおさめた人によく見受けられる発想であって、僕はすっかり村上さんに親近感を覚えて、「生意気を言うようですが、先輩の気持ち、分かります」という心持ちです。

 僕はしつこいようだが俗物そのものなので、今度仕事でお会いする機会があるかもしれない平野レミさん(和田誠さんの奥さん!)に、『村上ソングズ』にサインをネダロウ、どういう口上で頼もうかな、などと今から入念に準備を整えようとしているところだ。本当は村上さんのサインが貰えたら、末代までの家宝にするのだけれど。

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 『警官の血』上下巻を読み終えた。今年一番のミステリーという触れ込みであったので、かなり期待をしていた。途中冗長なところがなかったとは言わないが、全体の印象としては読み応えのある作品だった。

 戦後の日本に影を落とす事件、テーマをモチーフに、警察官三代を通じて描いた叙事詩といった趣きだ。下山事件、学生運動と左翼運動、公安警察の盛衰そして警察内部の腐敗、経済事件の流行。これらが有機的に警官の一族へと絡まっていく。乾いた文章(地の文、会話文ともに)が、戦後の日本の闇を照らすに相応しい雰囲気を醸成している。

 作品に登場する谷中は私の祖母が住んでいて、描かれる派出所やら五重塔跡やら谷中霊園は、幼少の頃の遊び場で馴染み深い場所だ。その意味でも、とても興味深くこの作品を読んだ。

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