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 ヤナギサワのアルトサックスを売り払った。

 その昔、サックスを習っていた頃、師に付き添われて大久保の石森楽器に行って買った代物だ。間違ってもお茶の水の楽器店などでは買ってはならないとのアドバイスがあった。量販店は値段が多少安いにしても、後々のメンテナンスを考えれば、プロも通う楽器屋で買い求めるべきとの主張であった。その師とはもう付き合いはないが、昼間のピットインなどで演奏をしながら、しかし食べていくことができないので、新宿のワシントンホテルでアルバイトをしていた。テナーにソプラノにフルートを演奏し、作曲はピアノで行っていた。ぱっとしない見た目とは裏腹に器用な人であった。また、自分はプロであるというプライドをきちんと持っていたので、アルトを選定する際にも彼の助言に素直に従った。

 初学者がいきなりアメセルやフラセル(※)という訳にもいかず、かと言って高校生のブラバンであるまいに、ヤマハをチョイスすることもできず、選んだのは状態の良い国産ヤナギサワの中古ブロンズアルトだった。

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 ブロンズがゆえ、金色というよりもちょっと日に焼けたような渋い銅褐色が光り輝いて見えた。値段にして20万弱だったような気がする。デイビット・サンボーンのようなアルトを吹きたいと申し出てみると、デュコフのメタルのマウスピースで何番だったか(確か4番か5番だ)を取り付けることになった。

 その後、意気込みだけは人一倍あったのだが、運指に戸惑い、倍音も吹き出すことができず、いくつか使ったことのないキーを残して、サックスの修行から遠ざかってしまった。ピアノやベースほど馬鹿でかいこともなかったが、引越しの度にヤナギサワのブロンズアルトは厄介者として扱われて来た。いつも埃を被り、主がアラジンの壺よろしく自分を呼び出すのを待ち続けた。が、その機会はついにやって来なかった。

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 本当ならば手放したくはなかった。ただ自分に対する言い訳になるのだが、地下の倉庫兼オーディオルームはコンクリート打ち放しで、まだまだ打設してから一年経っておらず湿度がとても高い。ブロンズアルトのケースは革のような素材であるから、湿気が大変お気に入りのカビの栽培場と化した(→7月31日付けブログ『地下政権の危機』)。このまま放置していてもただただカビが増殖するばかりで、たとえ将来再びアルトを手にしても、それは使いモノにならないと予想された。

 だから仕方なしに売り払った。

 というのが表向きの正当な理由で、その裏側では着実に増幅しつつある、意中のスピーカー入手のための資金確保を、形振り構わず進めてしまったということなのだ。つまりオーディオの資金を用立てるために、ヤナギサワは可哀相な牛のように、いま一度石森楽器へ売られていったということなのだ。

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 だから楽器の査定が終わり、代金をもらってから、ちょっとしたやるせなさに包まれて、大久保から新大久保、そして新宿へと歩いた。おセンチな時は歩くに限る。

 *  *  *

 大久保界隈は一大コリアンタウンへと変貌、進化していた。僕が高校生の頃から記憶の限りでは既にコリアンタウンだった。それが権勢拡大、歩いている人間のほとんどから発せられていたのは、ハングルであった。たまたま今日は海城中学、高校の「海城祭」が開催されていたようで、学生と思しきもたくさんいた。

 表通りから裏通りなぞへ至れば、そこは焼肉店と韓流アイドルのブロマイドが並べられた店が軒を連ねる、まさにディープなコリアンタウンだった。街にキムチによるエネルギーが充満していた。

 ノスタルジーから目を覚まし、何となく元気さを取り戻しながら、歌舞伎町の裏へと辿り着く。こちらの新宿は昔懐かしいゾーンだ。何をしていたとは申せませんが、僕はここ歌舞伎町のど真ん中で大学生の頃、いかがわしい飲食のアルバイトをしていた(もちろん犯罪に手を染めたりしたつもりはありませんが・・・)。ハイジアのアウトドアショップで衣類のセールが行われていたので、コロンビアのポロシャツを早速さきほど得た代金を元手に1枚買って、駅を目指した。

 そう言えば、今日はまだ飯を食っていないことに日が落ちてから気がつき、お誂え向きに「DUG」の目の前にいたので入店した。この店は僕にとってはジャズがどうこうなんてことよりも、新宿を根城にする大学生だった僕にとって、ここぞの時に女の子と杯を傾けるための重要な店舗の一つだった。もちろん家人を連れていったこともある、いやあるはずだ、もう社会人になっていたけれど。

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 別にここのオーディオは大した音がしない。今まで音を聴いたことなどなかったので、今日初めてこの店で“ジャズを聴いた”ようなものだが、音響装置を売りにする店ではないということだろう。誰其れが日本に来日コンサートにやって来た際に立ち寄ったとかライブをやったとか歴史を売る店なのかもしれない。随分と利用した割には、店についてはほとんど何も知らないというのもお恥ずかしい限りであるが、それが事実なのであるから仕方がない(店主の著作でも読めば分かるのかもしれませんが)。

 口の中の上顎にフランスパンのサンドイッチを突き刺しながら、ビールでそれを流し込んで、そしてディスクユニオンに行ってレコードを買った。
 
 こうやってヤナギサワのブロンズアルトは、いなくなり、その売却したカネも無碍にいなくなる。だがそれもこれも全てジャズのためではある。

※アメリカセルマー、フランスセルマー。セルマー社のサックスは生産国によって、アメセル、フラセルと称せられて、区別されています。

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無題
こんにちは。

偶然に私も以前セルマーのアルトを大久保で売り、スピーカーを買いました。。残念ですけど、ちょっと難しいんですよね。
byd 2007/09/17(Mon)16:02:07 編集
資金調達
bydさん、こんばんは。

オーディオに精進すると楽器を手放してでも、スピーカーを手に入れたい!となってくるものですね。

突き詰めると家を売り払って、アヴァンギャルドにFMアコースティックスのアンプをつないで、、、なんてことにもなり兼ねませんね。

聴く所がなくなってしまいますが。。。
ITSUNIRE 2007/09/17(Mon)22:32:58 編集
無題
そうなると大したもんですね!

空間もオーディオの一部だと思いますので機器に思いを馳せる前に部屋をどうにかしたいもんです。。
byd 2007/09/17(Mon)22:41:00 編集
サックス
売っちゃったんですか・・・。聴くだけでなく、そのうち聴かせる側にもなるのかと思っていたのに残念です。
小鳩 2007/09/18(Tue)14:13:47 編集
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